Goodbye, Patch Set. さよなら、PSR。

Database Patching Best Practices II [CON7748]
Building on a highly popular session from Oracle OpenWorld 2013, this session further explores ways to help you maintain and patch your database systems most efficiently. Learn about patch testing best practices, techniques for minimizing downtimes, how to best roll out patches in cloud environments, and more. The presentation also shares the latest Oracle Database 12c features and tooling to help ease patching processes.
Session Speakers
Eleanor Meritt - Vice President, Oracle
David Price - Vice President, Oracle
Session Schedule
Tuesday, Sep 30, 5:00 PM - 5:45 PM - Moscone South - 104
Presentation Download
CON7748_Meritt-OOW Presentation 2014 v1.pptx

https://oracleus.activeevents.com/2014/connect/sessionDetail.ww?SESSION_ID=7748

これは今年2014年の9月に開催された Oracle OpenWorld 2014のセッションのひとつです。*1


二か月ほど前、私はこの CON7748_Meritt-OOW Presentation 2014 v1.pptx の7スライド目までを眺めて、ひとり感嘆の声を放ちました。





Sustaining Engineeringの Vice Presidentである Eleanor Meritt氏は、ここ数年 Oracle OpenWorldOracle Database Patching の話をされています。
その話の冒頭のスライドには、2011年も2012年も、そして昨年2013年*2も、この文が冒頭に存在していました。

Patch Set
a maintenance release containing all bugs fixed for a given production version during a time period.

「パッチセットはメンテナンスリリース」だと。
昨年2013年までの 3回は、毎年「パッチセットはメンテナンスリリース」だと。


それが今年2014年のお話に用いられたスライド CON7748_Meritt-OOW Presentation 2014 v1.pptx には ありません。


Oracle Database Patching の話をするときにパッチセットには触れない。
Oracle Database Patching を理解していただくために、もうパッチセットの説明は一切しない。
やっと その時が来たんですね。




本投稿は、2014年を締めくくる“オラクルという単語を中心とした共通のコンテキストで話せる みんなが交流するイベント” JPOUG Advent Calendar 2014 8日目の記事です。
昨日7日目は渡辺 剛さんによる Oracle VM Server とその周辺のもの: Oracle VM Server と OpenStack。でした。
明日9日目はMac De Oracle@discus_hamburg こと Hiroshi Sekiguchi さんです。


ここから先は なぜ ひとり感嘆の声を放つほどのことなのか、やっとと思うのか、その理由を書きます。

2011年

私は3年ほど前の2011年10月19日にINSIGHT OUT 2011 – DB Tech Showcaseというシンポジウムで Deep Dive into Oracle Database Patchesというセッションの講師をしました。このセッションでは「パッチセット」とは一言も発しませんでした。
冒頭にパッチとは何と捉えているのかを簡素に話した後、こんな話をしました。

さて、これらがここからのお話について、お話することと、しないこと。

パッチそのものを理解するポイントとなるファイルの説明を基にした素朴な考察を話します。
ただし Oracle Databaseの リリースは「イレブントゥオゥスリー」または「イレブントゥオゥトゥ」。

もちろんナイントゥオゥトゥとかテントゥオゥファイブとかも仕事の対象です。もちろん「イレブントゥオゥワン」も。

ただ、新しいものを目にしたとき、目の前にあるモノをそのまま、ありのままを見る。

続けて

そもそも、新しく覚えるのに、なぜ過去のことから知らなきゃならないのか。
なぜ、はじめてのひとが、その業界に長年いる人しか知らないような、太古の歴史を知らなきゃならないのか。
そんなこと知らなくたっていいんじゃないのかと。

もちろん、それらをすべて暗記して、どんなときでも即座に話せることは素晴らしいことです。そんな方を尊敬します。

ただ、もっと大事なことから。
そして、目の前にある、手にとってやれる。
最初は その「きっかけ」。きっかけだけで、いいじゃないかと。

その「きっかけ」になるようなことを、どこかで話せないかなぁと思っていたんです。

そして、このような機会をいただくことになり、今、この場でお話します。

実物を、たくさん見続けている、わたしの、素朴な考察として。

この話の入りの途中の文言に ずいぶん迷いました。


迷った理由のひとつに「パッチセットに触れるか触れないか」がありました。


私は その頃既に「パッチセット」と言う単語を必要以上に用いたり、書いても書かなくても意味が通じるときに記述はしていませんでした。
日本語で今でも耳にする言葉や目にする文字列としての「PSR」も同様に用いていませんでした。


そんな私が直前に Eleanor Meritt氏のスライドを見て「パッチセットはメンテナンスリリースだからとか言わないといけないのか…」*3と思ったり、日本語で耳にする言葉や目にする文字列は「PSRをあてる」とか「PSRを適用する」とかが多いと思ったり。
そういう人たちに寄り添い、触れないわけにはいかないんじゃないか。
事実、リハーサルの時など「パッチセットに言及がないとわかりにくい」といったご意見もいただきました。その理由も共感でき納得できました。*4


でもパッチセットは、わたしがパッチを目の前にしているときに目にする文字列ではなかったんです。
これは当時から、いや もっと前から今現在でも Oracle Database Patching の Sustaining Engineering に関わりがあるなら、 Patching に言及する際には同じではないでしょうか。

わたしは考古学者じゃない。
わたしはITバブルの古き良き時代の語り部じゃない。
わたしの話を聴く人は過去を知らなくたっていい。
ありのままを見て、見てきたこと、見続けていること、ただその中から話したいことを話すだけ。
深い話や伝えたいことに対して不要な話は削ってシンプルに。
聴いている方にとって つまらない話をするために時間を費やしているのではない。
聴講される方は、うわっつらの薄っぺらい話を聴きたくて参加されるんじゃない。
こう思い、あえて一言も触れませんでした。



そして、講演後、実際にセッションを聴講いただいた方の中で「PSRの読み方がイレブントゥオゥスリーだった」と連想で記憶されている方が何人かいらっしゃいました。
私はイレブントゥオゥスリーとは言いました。
今も例えばリリース 12.1.0.2 のことはトゥエルブワンオートゥと言います。
だって、そう言わないと、私の話し相手には通じないのですから。
でもPSRとは一言も言っていません。
言及しなかったとしても、こうして連想されるのだと わかったことが私には とてもありがたかったです。
同時に この状況を少しでも変えたいと思いました。
私が言及しなかった理由が理解されていないためです。言わなきゃわからない。あたりまえのことです。

2012年

1年後となる2年ほど前、割り切って用語の話に特化しようと Oracle Database Patching Terminologyとして、Oracle LOVERS シーズン2 第7回 *5Unconference at db tech showcase 2012で お話しました。*6
表示したスライドは Real World Oracle Database Patching Terminology です。


3年前に一度自ら封印した Eleanor Meritt氏のスライドおよび その年2012年にも繰り返されていた文言をフィーチャーしつつも、彼女とは異なる根拠を用いて説明を試みてみました。
もう2010年9月のリリース 11.2.0.2 からパッチセットは Productionなこと。
製品であってパッチではないこと。
製品をパッチセットと言い換える必然性と機会が ほとんどないこと。

私が一年前に言及しなかった理由を話すだけで 40分*7も必要としました。*8

2013年

リリース11.2.0.4やリリース12.1.0.1が完成し公開されました。
製品をパッチセットと言い換える必然性と機会がますます少なくなっているため、Eleanor Meritt氏も そろそろパッチセットを冒頭で説明しないのではないかと予想していました。その予想は外れ、2011年2012年と同様でした。
リリース12.1.0.2が完成し公開されたら変わるのではないかと期待していました。

2014年

リリース12.1.0.2が完成し公開されました。
そして期待どおり Eleanor Meritt氏の Oracle OpenWorldでの Oracle Database Patching のスライドからパッチセットの説明はなくなっていました。




現在も PSR 12.1.0.2 や Patch Set 12.1.0.2といった記述をされる方がいることも知っています。理由はひとそれぞれでしょう。


ただ、わたしは…


この支配からは何年も前に卒業しました。


こういう習慣が身について何年か経ちました。


そして、今年、これまでの間に製品をパッチセットと言い換える機会は まったくありませんでした。
利用し始めて半年近く経つ Oracle Database 12c リリース1 (12.1.0.2) へ別の名を付けることもありませんでした。


Goodbye, Patch Set. さよなら、PSR。

*1:本投稿執筆時点では CON7748_Meritt-OOW Presentation 2014 v1.pptx がダウンロードできます。ご覧になられていない方は、ダウンロードして一度7スライド目までをご覧ください。

*2:Oracle Database Patching Best Practices [CON8413] https://oracleus.activeevents.com/2013/connect/sessionDetail.ww?SESSION_ID=8413

*3:後日Eleanor Meritt氏のお話を直接聴く機会もありました

*4:言及しない理由も、そして言及しなくても良い工夫にも、先の話の入りの途中をお話しした後には理解されていましたが。

*5:おすそわけ - Real World Oracle Database Patching Terminology - Oracle LOVERS シーズン2 第7回 - wmo6hash::blog

*6:Unconference at db tech showcase 2012 セッション中の様子

*7:Unconference at db tech showcase 2012 | Japan Oracle User Group (JPOUG)

*8:こんな話に40分もかける人は、この世で私だけでしょう。